もくもくプロダクトマネジメント( @Nunerm )

プロダクトマネジメント・エンジニアリングマネジメントなどについて黙々と

PMは技術力やドメイン知識をどこまで持つべきなのか 〜NewsPicksアカデミア 及川ゼミより〜

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久津(@Nunerm)です。

 

「日本のPMといえば?」という問いに高確率で名前が出てくるであろう人といえば。

及川卓也さんですね。

 

この度その及川さんから「プロダクトマネジメントの極意」を伝授いただける機会に恵まれました。NewsPickアカデミアのゼミです。

newspicks.com

 

決して安くない受講料のゼミの30人の枠に対して60人の応募があったそうで、日本でもプロダクトマネジメントを学ぶ必要性に迫られている人が増えてきているんですね。

 

 

というわけで、この記事では初日の講義での学びである

「PMは技術力やドメイン知識をどこまで持つべきなのか」

の考察を書きます。

 

PMは技術力やドメインに詳しくあるべき?

PMの役割には色々な定義がありますが、メルペイの丹野さんの言葉を借りると以下のようになります。

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このうち①を実現するためには、PMがその事業が属するドメイン(領域)を理解する必要があります。事業目標は通常そのドメインに存在するカスタマー、クライアントなどの全てのステークホルダーの課題や心理を理解し、かつ外部環境(景気、競合、規制など)をしっかり把握した上で立てられます。

事業目標自体はPMではなくCEOや別の人が決めることが多いと思いますが、その背景や狙い、本質をしっかりPMが理解しないと「事業目標を達成する打ち手」を導くことはできません。よってPMがドメイン知識を持つことが求められるのです。これがPMが"miniCEO"と呼ばれる所以でもあります。

pixivの清水さんのpmconf2018 の発表でも、特定ドメインのプロフェッショナルになることによるメリットが語られています。 

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また技術力も同様です。

役割の②③を実現するためには技術力が求められます。及川さんの講義でPMの責任は

「何(WHAT)を」作るかを決定する。「何故( WHY)」、「いつ(WHEN)」作るかも決める。

と定義しています。エンジニアが"How"に責任を持ちます。

"What"を決めるときには技術を前提とする必要があります。エンジニアチームの技術力とこれから作るものに求められる技術を把握した上で、"What"と"When"が決まります。技術を理解していないと、極端な話エンジニアチームの持っている技術力ではどうしようもない"What"を定義してしまうリスクがあります。

 

つまり「PMは技術やドメインにとことん詳しくあるべき」というのは至極当然な考え方であって、詳しければ詳しいほど良いプロダクトマネジメントができると思われがちです。

 

 

ところがどっこい。

 

そうとも限らないのです。

 

 

PMが技術力やドメイン知識を持ちすぎることによる弊害

それは「無意識のうちに目標を小さくしてしまうこと」です。

技術に詳しいと、エンジニアチームのキャパシティを明確に把握できます。そうなると無意識のうちに「自分たちのエンジニアチームだったらこのぐらいしかできないだろう…」と思い、勝手に制限を設けて目標を小さくしてしまうことがあります。

まだドメイン知識も同様です。ドメインに詳しいということは、そのドメインでの常識や風習が脳内にガッツリインストールされており、無意識のうちにこの制約の範囲内での目標を立ててしまう恐れがあります。

 

PMはプロダクトの成長を最大化しなければいけません。最初からPMが自ら目標を小さくしてしまうようなことはあってはならないのです。

 

一方で技術力やドメイン知識に強くないことによるメリットがあります。

限界や制約を知らないので、純粋に目指すゴールへの最短距離を走ろうとします。もちろん詳しい人と検討すればそれが難しいということがすぐに明らかになるかもしれませんが、この「一度考える」ということが非常に重要だと思います。その限界や制約はもしかしたら取っ払うことができるかもしれない、それができたらイノベーションが起こせるかもしれない。一度もこの可能性を検討せずに進むよりは、一度でも考えてみることで大きなチャンスを得られるかもしれません。

ドメイン知識を知らないことによる成功例として、Travel Nowが挙げられます。旅行代金を後払いできる画期的なサービスです。

経歴を見る限りBANKの光本さんは旅行業界の経験がないので、旅行ドメインに関してはそこまで詳しくないはずです。おそらく詳しくないが故に旅行業界の常識であった「旅行は前払いor当日払い」という制約を取っ払うことができたのだと思います。

 

つまり、必ずしも技術力やドメイン知識に詳しいことがプロダクトの成功につながるというわけではないのです。持っていなくても素晴らしいプロダクトを作ることは可能なのです。

 

 

技術力やドメイン知識に強いPMはどう振る舞うべきか

「頭を切り替える」という習慣が求められます。プロダクトを作っている最中やデータ分析をする際などは、その技術力やドメイン知識をフル活用してプロダクトの成長をどんどん加速していくべきです。しかし戦略立案の際やピボットを検討する際などは、頭を切り替えて、自分の頭の中にある「制約」を取っ払った状態で客観的にプロダクトが取り巻く状況をを見つめることが求められます。

講義中に出たエピソードとして、とあるCTOの方は戦略や企画を検討するときと技術を検討するときで使うツールを完全に分けているそうです。前者ではAdobe製品などのデザインツールで作成し、後者ではエディタを使ってプログラミングをしながら考える。そうやって使うものを切り替えるという儀式を行うことで自分の頭を切り替えているそうです。

 

技術力やドメイン知識に弱いPMはどう振る舞うべきか

もちろん技術やドメインを知らなすぎるのは問題外です。経営層やエンジニア、マーケターなどと会話し議論できるようなレベルは最低限身につけるべきです。

その上でチーム内にいる技術やドメインに強い人と信頼関係を構築し、「知らないが故の強み」を発揮してゴールへの最短距離を求めていくという振る舞いが求められます。

 

少し余談ですが、懇親会で受講者の方から出た悩みに「経営層にズバ抜けてドメイン知識に詳しい人がいて、この人が決める"What"が文句なしに筋がいいのでPMが"What"を決められない。」というものがありました。

及川さんの回答は「もしそれでうまく回るなら、極論PMは不要でPO(プロダクトオーナー)さえいればいい。POが実行する優先順位を決めるだけで十分。ただし恐らく、どこかのタイミングで筋のいい"What"が出てこなくなるはず。」とのことでした。

 

 

まとめ

タイトルの「PMは技術力やドメイン知識をどこまで持つべきなのか」の問いに対する自分なりの答えは以下のようになります。

  • 経営層やプロダクトチームメンバーと会話できるレベルは最低限必要
  • 技術やドメインに強いPMは、その強みを発揮しつつも「頭を切り替えて制約や限界を一度取り払う」という姿勢が求められる
  • 技術やドメインに弱いPMは、その弱みを強い人と協力することで補いつつも「ゴールへの最短距離」を純粋に求める姿勢が求められる

 

プロダクトマネージャーカンファレンス2018の感想noteにも書きましたが、

自分の強みを認識し、かつ自分のいる環境で何が求められるのかを理解した上で、目指すべきプロダクトマネージャーの姿をしっかり定義すること

は、役割や必要なスキルを定義しにくいPMにおいて重要なことだと、改めて認識することができた初日でした。

note.mu

 

他にもOKRの装着方法とか、PMとEM(エンジニアリングマネージャー)との役割分担に関する学びもありましたが、それはまた別の記事でまとめたいと思います。

 

こちらの内容に関してご意見・ご質問がある方はご遠慮なくコメントください。(特に受講生の方!)

 

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