プロダクトマネージャーに必要な「定義しにくいスキル」
こちらはプロダクトマネージャー Advent Calendar 2020の21日目の記事です。
改めまして久津と申します。今年の6月からグロービスでPMをやっております。
はじめに
「PMにはどのようなスキルが求められるのか」
「PMになるためには何から学べばいいのか」
こういった話をよく聞きます。若手のエンジニアからよく相談されたりもします。その際に自分なりに「まずドメイン知識を学ぼう」とか「ユーザーの声を聞きに行こう」などアドバイスはするのですが、毎回自分の口から発しているアドバイスに自分自身が腹落ちしないというか、芯を食っていない気がしていました。
PMのスキル定義には、有名なプロダクトマネジメントトライアングルや、エンジャパン岡田さんがこの記事で定義した「PM SkillChart HEX」があります。
これらの定義は良く整理されてて素晴らしいと思いますし、内容に対して全く異論はないのですが、「定義されている全てのスキルを身につけたPMが確実に結果を出せるのか?」と想像すると、どうもしっくりこない。何かが足りないような気がしていましたが、今までそれを言語化できていませんでした。
しかし、最近いろいろな方々とお話する機会があって、ある程度言語化できてきたので、この記事にまとめてみます。
PMに必要な「定義しにくいスキル」
自分がPMに必要だと思っているスキル、それを言葉にすると
- 難しい局面をどうにかして乗り越えるスキル
- 物事がうまく進むように取り計らうスキル
- プロダクトマネジメントのための土台を作るスキル
みたいな感じです。
具体的な事例を挙げてみます。
- セールス部門と開発部門の関係性が良くなくて、うまくサービスが伸びないのを相手の責任だと押し付けあっている状況において、セールス部門のMtgや商談の場に同席してセールス部門の事情やインセンティブ構造などを把握し、コミュニケーション方法を変える(インプット情報を変える、言語レベルを合わせるなど)ような動き
- とあるステークホルダー2人の価値観がまるで合わず、毎回喧嘩のようになって話が進まない状況において、全てのコミュニケーションの間に入って円滑な議論が進むように場を設計する動き
- リソース不足で誰も着手しようとしない技術検証タスクを、全く経験がないが独学でとりあえずできるところまでやってみたら意外と簡単だったと判明した、みたいな動き
- プロダクトロードマップを作りたいが、とある役員が忙しくて上位方針のアウトプットがないので作れない状況において、役員の代わりに情報を揃えてロジックを組み立てて提示し、役員が早く決められるようにする動き
言うなれば「組織構造の歪みによって発生した問題やボトルネックを解消しにいくスキル」という感じでしょうか。(わかりづらい…(´・ε・`))
正直「これらの動きはプロダクトマネージャーがするべき仕事なのか?」と問われたら、「知らん」って答えます。ただ、プロダクト開発を早く前に進めるためには絶対に必要です。別に誰がやってもいいのですが、目の前にボトルネックが発生した時に迅速に自ら解決に導けるPMの方が強いと思っています。
逆に上記のプロダクトマネジメントトライアングルなどに定義されているようなスキルを備えていたとしても、これらのスキルが皆無だとワークしないと思っています。ボトルネックのせいでパフォーマンスを十分に出せないのに、そのボトルネックの解消を待ち続けなければいけないからです。「セールス部門が情報をくれないから進まない!」とか「上位方針が出ないから何もできない!」とか言うだけで、誰かが解消してくるのを待ってるだけでは、せっかくのプロダクトマネジメントスキルを活かすことすらできません。
もしかしたら海外の大手IT企業とかでは、こういう問題解決に特化した役割の人が存在して全て解消してくれるので、PMはやる必要がないかもしれませんが、日本においてはそっちの方がレアではないでしょうか。
要は「PMの役割定義なんてどうでもいいから、プロダクト開発に邪魔なものは自ら解消しにいくんじゃい(#゚Д゚)ゴルァ!!」という姿勢やその問題解決スキルが、PMに求められるスキルの土台となる部分なんじゃないかなと思います。この土台があることで、それ以外のテクニカルスキルを最大限発揮して成果を生み出すことができるのです。
この「定義しにくいスキル」は見えにくい
これは言語化が難しいスキルなので、職務経歴書などに書きづらく、アピールポイントとしても活用しづらい側面があります。自分は何回か転職を経験しましたが、自分からこれをアピールしたことはありません。「仲悪い2人の間を取り持てます!」と言おうとは思わないですよねw
一方でこういうスキルを求めている企業から質問されることは結構あります。
例えば、
- デザイナーとどうコミュニケーションを取りますか?
- 何も方針が決まってない中で進まざるを得ない場合にどう動きますか?
- 様々なステークホルダとの折衝は得意ですか?
のようなちょっと遠回しな質問で、このスキルの有無を見極めようとします。実際自分も採用側に回ったらこのあたりを聞きます。
ただこれを面接の中で見極めるのがめちゃくちゃ難しいんですよね…というかほぼ不可能ではないでしょうか。組織によって状況や問題、適切な解決アプローチが異なりすぎるので。仮に「めっちゃ得意です!」と答えられたところで、自組織の状況にそのまま適用できるかどうかはわかりません。ジョインしたらハマらなかった、逆に期待してなかったけどめっちゃ活躍してくれた、のように若干運ゲー要素があります。
つまり、ここをしっかり言語化してアピールできるようになれば、市場価値の高いPMになれるかもしれません。(あくまで持論ですので、これアピールして面接に落ちても責任は取りませんw)
この「定義しにくいスキル」を得るには
いろいろ考えてみたんですが「経験と失敗から学ぶしかない」と結論づけました。本を読んだり先輩からスキルトランスファーして得られるものではないなと。
この手の問題やボトルネックは「Aの場合はB」のようにロジカルに解決策を導くことができるタイプではありません。その時々の状況に応じて都度アレンジをしていく必要がありますし、自分自身の状況にも左右されます。例えば信頼貯金がある状態とない状態ではアプローチも全く変わってきます。つまり解決策の引き出しを増やしながら状況に合わせてうまく適用させる「自己流ロジック」を持つ必要があります。もちろん先輩のロジックを参考にすることはできますが、それをそのまま真似してもなかなかうまくいきません。
書籍「実践 行動経済学」に以下のような記述があります。
数えきれないほどの時間をかけて練習すると、熟練のゴルファーは熟考するのを避けて、自動システムに頼れるようになる。優れたアスリートの例にもれず、優れたゴルファーは「考え過ぎる」危険性に気づき、「勘を信じる」「がむしゃらにやる」ほうがずっと良いかもしれないと悟るのである。自動システムは何度も反復して訓練することができる。しかし、訓練には膨大な時間と労力が必要になる。一〇代の青少年があれほど危険な運転をするのは、一つには、自動システムがあまり訓練されていない上に、熟慮システムを働かせるのにかなり時間がかかるからである。
リチャード・セイラー,キャス・サンスティーン. 実践 行動経済学
ここでいう「自動システム」とは書籍「ファスト&スロー」のシステム1と同じ意味で、直感的に意思決定ができる頭の機能のことを言います。つまり経験を積んでいけば、自分なりの信じられる「自己流ロジック」が出来上がるのです。
ではどのようにしてその経験を積むのか。
「躊躇なく火中の栗を拾いに行けるスタンス」を持つことが求められます。総じてこの手の問題やボトルネックは関わると大変なやつです。できれば関わらずに避けて通りたいと思うのが人間の性ですが、それを振り切って自ら挑むことで貴重な経験の場を得られます。必ずしも過酷な環境に転職する必要はなく、日々の業務の中にある手付かずの問題にトライするところから始めていいと思います。失敗しても死なない程度の問題であれば、積極的に挑んでいきましょう。
そして、この自己流ロジックの構築の効率を上げるための知識が存在し、これはある程度書籍などから学ぶことができます。多くの場合人や組織が関わるため、心理学や組織学の触りだけでも知っておくと助けになるかもしれません。個人的におすすめなのが書籍「他者と働く」と「サイロ・エフェクト」です。前者では基本的に相手とはわかりあえない前提でどうコミュニケーションを取るべきか、という考え方を学べます。後者ではサイロ化した組織がどういう仕組みでワークしなくなるのかを実例を元に学べます。
あとがき
実は今回のプロダクトマネージャーアドベントカレンダーの内容は、昨日まで違う内容で書き進めていましたが、昨晩行った @KANEさん と @eroccowaruicoさん とのキャリア雑談でこの話が盛り上がったため、急遽内容を変えました。
やっぱり人と話すと自分の考えが言語化されますね。
この内容はかなり主観が入っていますので、同意できない方も多いかと思います。自分は様々な規模やフェーズの組織に属してきており、こういうスキルが活躍する現場を何度も見てきました。なので自分なりの理想のPM像の一要素として、今後も重要視していきたいと思っています。
また、最後までこの「定義しにくいスキル」に名前をつけなかったのは、単純に良いのが思いつかなかったからです。ネーミングセンスのある方、もし良いアイディアがあれば教えてください。